ひとくち説法

「名医の治療」

2年ほど前の事です。お寺の近所に住むAさんと言うおじいさんから相談を受けました。

「妻に私の体臭がひどく、一緒にいるのが辛いと言われたのだが、お上人どうしたら良いのでしょう。」

どこか暗い影を帯び、小さな声でそう話してくださいました。私には嫌な匂いなど一切感じなかったのですが、少しでも力になれたらとお寺にある良い香りのする塗香を少量お譲り致しました。

数ヶ月後、久しぶりにお会いしたお顔には変化が見られました。

「お陰様で妻から嫌味を言われることも減りました。」

そう笑顔でご報告くださったのです。一安心しながらも、いくら良いお香を身につけたところで、そこまで変わるものかとその時は少なからず不思議に思ったのも事実です。

しかし、今思い返すと、塗香をお渡して以降、Aさんにある変化が見られた事を思い出したのです。

一番の変化は、毎日の様に本堂前で手を合わす姿を見かけるようになった事です。
さらに、今では毎月開催の「お経の会」や「法話会」にもご参加くださり、ご一緒にお題目をお唱えしております。

笑顔を取り戻したきっかけは「お寺からいただいたお香」だったのかもしれません。しかし、Aさんの悩み(病)を治した本当の理由はそれだけではなかったはずです。

日蓮大聖人はお手紙の中で、私たちの病について二種類あるとご教示くださっています。

「人には二種類の病がある。一つには身体の病。これは名医が調合する薬によって治療する事ができる。そして、二つ目は心に生じる病。これは三毒から起こり、煩悩として現れる病であり、仏でなければ治療する事はできない。」

一見すると、「体臭」は身体的な病のようですが、この時の病は、おそらくAさんの様々な煩悩が生み出した心の病だったのかと感じるのです。

きっかけはともかく、生活の中で仏さまと毎日のように接するようになり、穏やかな心でお題目を唱え始めたAさん。毎日知らず知らずのうちに仏さまと言う名医の治療を受けていたのです。

今では家庭内で何か言われると言う話は一切聞かなくなりました。Aさんから出てくるお言葉は明るい笑顔になるお話ばかり。これからもご一緒にお寺で名医の治療を受けていきたいと願っています。